院長の取り組み
経緯
昭和57年8月、この地に内科の診療所を開設して15年目の平成9年7月に地域の草の根の文化交流の一拠点を作りたいという夢の実現の為に「リバティホール」を建設することが出来ました。しかし、理学療法室が隣にあるため平日の利用が難しいとのことで、平日の有効利用に「老人デイケア」をやったらどうかという勧めが多々あり、手探りでスタートしました。はじめからそういう目的で作っていないため構造的に未だにいろいろ使いにくいところも残っていますが少しずつ手直しをしながらやっています。
昨年あたりから定員の40人ぎりぎりの状況となり、何とか定員を増やせないかという患者さんや家族からの要望が相次ぎ本年、平成12年4月介護保険のスタートにあわせて従来のデイサービス、介護保険下の「通所介護」施設を『既設の建物の改造』という形で、定員25名でスタートさせることが出来ました。
介護保険のスタート時は、ショートステイの利用がこれまでよりも著しく制限され、しかも半年に何日という形でまさかの為の使い控えもありショートステイ施設はガラガラ、当院の通所者の利用をお願いするにも頼みやすい状況でした。ところが利用者からの不満に答える形で次第にショートステイの利用枠が拡大し、どちらの施設でも『普段自分のところに通所している方優先』ということで、現在当院利用中の180名余の方々のショートステイ利用申込にたびたび支障をきたすようになってきました。
そこで利用者に対する責任上、どうしても自前のショートステイ施設を作る必要に迫られてきました。そして今年7月末、急遽思い立って当院の管理会議で提案、職員の協力を得て当院10年来所有の浅田の土地に建設を決定し、現在建築中、来年2月18日オープンの運びとなっています。この土地は私が、浜松市医師会理事を兼務しながら静岡県医師会理事を引き受けざるを得ない状況に追い込まれた時に、一人きりの診療所でたびたびオフィスを留守に出来ないので、分院を建設して医師を招聘し、分院は午前中診療として午後は本院に来てもらって私の体を空けるという目的で、未だバブルの時期に苦労して手に入れた土地です。事情があって分院建設を断念し放置された土地でしたが、こういう形で甦ることになりました。ショートステイ施設も本当は本院のすぐ傍が私も動きやすいし、いろんな意味で良いに決まっていますが、そうした事情です。そうした中でついに来年1月からは、要介護度5だと月に30日も利用できることになり、私たちの決断は正しかったと胸をなでおろしています。と同時にまたすぐ足りなくなりはしないかという心配まで早くも出てきました。
院長の思い
研究に没頭してきた大学を離れて19年余、地域に根ざした開業医として地域医療に取り組んできて、『急性期の手のかかる医療』よりも『プライマリケアと看取りの医療』が重要なテーマとなっていました。朝、家族が目を覚ますと息が止まっていたという患者さんを、早朝往診して帰ると近所の患者さんが外来へ来て、「先生、私もあのようにお願いします」とおっしゃる。「ぼけたくない」、「寝たきりになって家族に迷惑をかけたくない」老人たちの切実な願いです。「良い死を迎えるには良く生きること」。年老いた方々が最も望むことは決して「死の瞬間まで死と戦う壮絶な医療」ではなく「安らかな人生の締めくくり」です。どうすればそれが達成できるか、その答えが「老人デイケア」の中にあったと思いました。
これまで通所された240名余の方々の中で33名の方が亡くなられました。皆さん亡くなるぎりぎりまで元気に通所され、在宅死も病院死も殆どの方が通所最後の日から1週間以内でした。誰にも迷惑をかけずにコロッと死にたいという希望の一端でもお手伝いできているという手ごたえを感じています。これからも利用者の立場にたって楽しい安らぎの場を提供していきたいと念願しています。
(平成12年秋 記す)