静岡県医師会報(平成9年7月1日発行、第1194号)
今号のとびらのことばは三橋理事の中国訪問記です。私のように外国旅行経験の乏しい者にとっては、すべてが新鮮でたいへん羨ましいかぎり。私の住む浜松でも浜松医科大学を中心に中国や韓国など国際学術文化交流が盛んに行われており、医師会の仲間も有志という形でよく中国を訪問しているようです。私もときどきなんとかその中に潜りこめないかと思うこともありますが、ちょっと不安もあり、今のところ時間の、というかおそらく結局は心のゆとりがなくなかなか実現しません。三橋先生の旅行記はさすがに歴史、地理を中心とした社会学の学術資料といった趣で、どこへ行ってもアルコール中心で自分の活躍の場がなければ、それこそ暇さえあれば寝ているといった具合の私などかくありたいものと爪の垢でも煎じていただかなければと恥じ入る次第です。
郡市医師会だよりは、引佐郡医師会幹事の木俣先生に、奇しくも同じ中国での戦時下の体験をとおして、きっとその頃は切実な問題であっただろうことを素晴らしい観察眼でかつユーモラスに書いていただきました。拝読しながら、直接は関係ないが、かの紫式部に対し「いったいいつ厠へ行くのだろうか。ああいう人は行かないのだろうか。」と思ったある御仁が厠の中へ「むらさきは
あさ くそ まる」と書いた短冊を置いたところ紫式部は「く」の次に点を打って「紫は浅く染まる」と読み替えさせたのが、表彰状のように句読点のない文章から、句読点を日常的に使う始まりとなったという話をどういうわけか思い出しました。
会員の声は清水市立病院の小坂副院長に、静岡県癌治療研究会第30回記念講演会の模様と、この会の紹介、運営上の苦労話などを書いていただきました。病診連携の目論みも開業医の参加の減少で危ぶまれている様子、高度に専門細分化されていく現代医学では、常に最先端のみの探求にとどまらず、些細な前駆所見を見落とさないための全身的な視野の育成と言った視点もお願いできれば病院医療から久しく遠ざかった私たちでも再び足が向くのでないかと思ったりします。