学校給食を「教育給食」として活かすために
学校医として果たすべき役割について

静岡県医師会理事 平良 章

 昨年のこの協議会で学校給食のことが取り上げられた教育医事新聞をいただきました。その後、日本医師会雑誌でも本年5月1日号で学校給食の特集を組んでくださいました。今年の7月号の教育医事新聞でも再び学校給食の特集です。私たちにとってはタイムリーな企画とありがたく思っております。

 さて、「学校給食」は6歳から15歳までの味覚、嗜好、食習慣の形成される最も大切な時期に行われております。私たちが医師としてもう少しそこへ関与していけるとすれば、日常診療において大半が食生活や生活リズムの乱れによって生じた“病気”を扱っている私たちにとって、かなり重要な分野ではないでしょうか。戦前は知事直属の確固たる地位にあった学校医も、現在は単に学校長の諮問に答えるだけの一非常勤嘱託職員に過ぎなくなり、しかも学校医が法的に存在しなかった空白時期の昭和21年から33年の間に成立し、拡大して行った学校給食については、学校保健活動の中でも学校医の関与する部分は少なく、意見を求められる事も、大半は試食の機会すらないのが実状であろうと思われます。

 静岡県では、昨年、浜松市において、市医師会が企画して学校給食に対する大規模な意識調査を試みたので、その結果を紹介し、考察を加えてみたいと思います。

 調査は浜松市内の大規模、中規模、小規模の小、中学校を地域性を考慮しながら各1校、計6校を抽出し、その全児童、生徒3,665人、全保護者2,899人、担任の先生108人、浜松市医師会員682人、計7,354人を対象としました。回答数6,466人、回答率87.9%でした。

 児童、生徒への設問の内容と回答を資料1,2に示しましたが、今回はこれに対しては特にコメントを加えないことと致します。
 

 保護者に対する設問の内容と回答の%を資料3に、担任の先生方を資料4、ここでは便宜上、男性教師をM、女性教師をF、その合計をTとしました。また、医師会員を資料5に示してあります。個々の詳細の説明は時間の都合上省略させていただきますが、保護者4の設問の「その他」に書かれたことから保護者にとって給食は何故必要かをまとめてみると

 好き嫌いをなくす、食べず嫌いが集団の中で是正される。
 栄養の偏りの補正。
 温かいものが食べられる。
 準備、配膳、後片付けが集団の中で学べ、またマナーや感謝の心など生きた教育が出来る。
 弁当を持って来れない子、作ってもらえない子のいることを考えてあげるべき。
そして
 安いことの6点に整理されました。
なるほどと思うことも多々ありますが に関しては一日の食事の2/3を受け持つお母さん方頑張れと言いたいと思いました。

 保護者14の設問「その他」では、
 食事をするときに他に気を取られないようにテレビをつけないとか、
 漫画を見たりとか何かしながら食べないこと、
 学校のこと・友人のことなどを話すようにして楽しく食事をするように配慮しつつ、
 しかし、口に物を入れてしゃべったり、くちゃくちゃと音を立てないようにする。
 良く噛んで食べる。
 食べ過ぎない。 しかし、だらだら食べず時間内に済ますようにする。
 三角食べ、ばっかり食べ(1つの皿の物ばかり食べ、それがなくなったら次の皿に移るという食べ方)をしないように注意する。
 生きている物を殺して食べているんだということ。
 さらに農家の人、漁師さん、料理を作ってくれた人への感謝の心を持つこと。
 食品のそれぞれの栄養、安全性。栄養がなぜ体に必要かを教え、品数を多く食べるようにすること。
 また朝食の大切さを教え、夜食は極力減らすこと。
 インスタント食品を避け、食品添加物にも注意をはらうこと。
 姿勢について、肘をつかないこと。犬食いの姿勢にならないよう注意する。
 後片付けの手伝いをさせるようにするなど、
いろいろと大事なことを家庭で指導してくださっている様子が伺えました。
担任の先生の設問1,2では僅差、設問3,4,5,6で大差があり、設問6の「学校医と相談」というのがゼロというのは残念な結果でした。設問2の「その他」では
 自分の判断にまかせる、あるいは予め自分で食べられる量に調節させ、ある程度まで食べさせるが残すのもやむを得ない。
 おしゃべりで遅れる場合、控えるよう指導している。
 量が多い子は欲しい子にあげる。
 早めに配膳させ、少しでも食べる時間を増やす。あるいは、
 量が多くて食べられない子は出来るだけ食べさせる、
 多少時間が遅れても食べれる分だけ頑張って食べさせる、
などとなっています。

設問78,910の結果を合わせ考えると、男性教師の「困惑」(わからないので押し着せになってしまっている)と「意欲」(勉強する必要性は感じている)が伺われました。再下段の要望事項では、
 時間のゆとりが欲しい、今の時間内では良く噛むとか味わって食べるというのは無理、
 食べる量を強制せず、給食嫌い=学校嫌いを作らないようにして欲しい。
 居残り給食を強制指導するのは止めて欲しい。
 年齢・性別・体の大きさなどを含め個人に合った量にして欲しい。
 子供の希望を取った献立やバイキング給食も取り入れて欲しい。
 食堂が欲しい。屋外の青空給食とか、またちがうクラスやちがう学年との交流給食など企画して欲しい。
 食器が好ましくない。学校へ行くようになってトレー皿の為、犬食いの姿勢になった。別れた食器にして下さい。両手を使って食べるように指導して欲しい。
 顎の発達が悪く歯並びも悪いので、もう少し歯ごたえのある硬いものを食べさせてもらいたい。
 センター方式にしないで欲しい。
 ケチャップソース、ドレッシング等かけるものが殆どないようなので使って欲しい。食パンにジャムなどつけるものが欲しい、
 化学調味料や着色料の多い物は避けて欲しい。
 和食には牛乳ではなくお茶、汁物をつける。
 米飯持参のとき、冬は食べる頃には冷たくなるので温めて欲しい。冬には牛乳も温めて欲しい。
 衛生面、異物混入がないよう望む。
 月曜日は荷物が多いので、米飯持参は他の曜日にして欲しい。
 パックのご飯はやめて、学校で炊いて欲しい。PTAで協力しても良い。
 静かにお話ししないで食べるとか、楽しいことをおしゃべりしながら食べるとかいろいろやって欲しい。
 学校給食を参考にしたいので献立を教えて欲しい。献立表の空白に出来る限り調理法を載せて欲しい。
 部活でお弁当を作っているが夏場にお弁当の傷みが心配、土曜日に部活のため弁当を作るので土曜日も給食があると良い。
 また冬休み・夏休みの休み明けからしっかり給食にして欲しい。
 高校でも給食があると助かるという意見に対して、
 あまり多くのことを給食で満たそうとすること自体無理がある。
 弁当持参の日もあると良い。 給食全廃を望むというのもありました。

さらに担任の先生では、
 給食の先生の増員、
 給食記念週間での大掛かりな催しはやめて欲しい、
 給食指導担当が大変真剣に行っているので一任していますというのもありました。

また医師会員では、
 各学校毎の給食委員会を設置、学校医も参加する。
 即刻中止すべきだ、母親の躾の方へ、母親も子供も姿勢・マナーが悪いから、食事をとうしての教育は家庭でやるべき、現在の日本では不必要な過剰サービスが多いがその一つというのもありました。

全体を見渡して、今すぐ改善出来るポイントを中心に10項目の提言に纏めてみますと、
1.出生率の低下に伴って出来てくる余剰教室を利用して食堂を作ること。
2.マナーの指導と相反するランチ皿をやめ、一つ一つの食器にする。できれば地元の焼き物を用い、割れ易いものを大事に扱うことを教える。
3.バイキング方式を多く取り入れ、男女差、体格などの差をカバーする。
4.食パンにマーガリンやジャム、野菜にドレッシングなどを使う。
5.和食にはお茶、汁物をつけ、洋食でも冬は牛乳を温めて。
6.米飯持参ではなく、週に一回弁当持参の日を作る。ただし、冬は温めれるように配慮する。この場合、食中毒に十分注意する。
7.家庭でも2/3の食事の重要性を再認識し、家庭での保護者の指導の大切さを重視し、学校との協力、協調関係を育む。
8.保護者、学校の先生、医師も加わって、学校を中心とした勉強会を企画する。
9.各学校に学校給食委員会を設置して、学校医はこれに積極的に参加し、意見を述べる。
10.やはり、最終的には文部省にお願いして、教育学部、医学部の栄養学の教育、他学部も含め教員免許取得に憲法とともに栄養学の単位をを必須科目とするなど教育課程の見直しを提言したいと思います。

 給食全廃という考えは埼玉県庄和町の例もあるように、かなり以前から根強くあると思われますが、少数意見です。しかし、少数だからといって無視してよいというのではなく、その理由に耳を傾けることによって現在の学校給食のかかえるさまざまな問題点が浮かび上がってきます。それらを一つ一つ検討していくことがより良い学校給食を目指す近道のようです。さらに、禁煙とかアルコールの問題、運動、食教育など、日本における学校健康増進運動プログラムとしてのKYB(Know Your Body)運動の一環として、学校医としての私たちは学校給食をその絶好の機会としてとらえ、もっと積極的にこれに関わって行くべきではないかと考えます。


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