日本医師会医師会病院・臨床検査センター等検討委員会
委員 平良 章
医師会立臨床検査センターの運営・経営問題は現在非常に危機的状況にある。臨床検査センターを運営する各郡市の医師会が苦悩する中で、これを推進して来た日本医師会としては、抜本的な対策を講ずる必要があると思われる。
医師会立臨床検査センターの存在意義は、第一にそれが医師会活動の拠点として機能することにある。しかるに現在の医師会立臨床検査センターは度重なる受託検査点数の引き下げと民間検査センターとの競合の結果、多くの会員を民間の検査センターへ奪われ、年々厳しい経営を余儀なくされており、検診事業に重点を移す方向へ転換しつつ活路を見いだそうとしている。しかしこうした中で、いくら運営・経営が苦しくても民間検査センターへ検体を出している会員のしめつけを考えるのは医師会会員であるメリットとの絡みもあり決して薦められるべきでない。現在は検診事業の黒字分で検体受託検査の赤字を埋めてしのいでいるセンターが大部分のようであるが、民間検査センターへの委託(一部または全面外注、請負契約など)、あるいは合弁(共同経営、第3セクターなど)を模索したりするところも出て来ているのもやむを得ないところである。これは検診事業を主体とすることが会員の検診業務への動員、会員の医療機関で個別検診を行わず医師会立臨床検査センターで一括委託して行うことによる会員のデメリットなども考慮しなければならず、苦しい選択となっていることを理解しなけれ
ばならない。
医師会立臨床検査センターの今後歩むべき方向について
1.受託検査点数をさらに引き下げ、これを検査の判断料へ振り替えることにより、民間検査センターがこれ以上受託検査の割引率を低く維持できない状況が生まれ、すべての検査センターが検査の実施料の100%の受託料で受託しなければ経営がなりたたないという状況になればおのずと金銭的な競合はなくなって、検査精度と顧客サービス(会員サービス)で勝負することになるであろう。そこまで持ちこたえれば医師会立の臨床検査センターは存在意義がさらに大きくなると思われるし、そうなってから臨床検査センターを持たない郡市の医師会が臨床検査センターを新設をしたり、受託検査をやめた医師会立臨床検査センターが再開したりすることも意味のあることとなるであろう。
2.そうなれば検診事業は、検診車を用いての集団検診を中心とし、市町村の健康診査は可能な限り会員の医療機関での個別健診を原則とする方が会員のメリットになると思われる。
3.また医師会病院・医師会立臨床検査センターは会員が自己のセンターとしてCT,MRIなど高額医療機器を駆使した生体検査を気軽に手軽に利用できる施設であることが望ましい。これにより地域の開業医も研鑽を積み診断レベルで総合病院を上回る技量を維持出来るであろう。
4.現在の状況では、医師会立臨床検査センターは集配業務と情報提供を大切にして受託検査は末梢血液検査、生化学検査などの比較的ローコストの検査を中心とし、血清分離などの一次処理を行ったうえで病理検査、細胞学的検査、その他の特殊検査など不採算部門は思い切ってどんどん外部委託に踏み切るのが経営の効率化に繋がるであろう。こうした時に医師会が常にイニシャチブを握っておくことが必要である。
5.精度管理の面からも、1地域で1つの臨床検査センターがその地域の一般検査のすべてを受け持つことがデータの互換性の点からも望ましい。その上で、特殊検査に関しては精度管理の面からも、コストの面からも中央の大手の検査センターにまとめるべきである。即ち、将来的にはできるだけ医師会立臨床検査センターが地域の基幹病院をも含めてその地域のすべての一般検査を受け持つ方向で努力すれば、基幹病院も開業医も同じ検査センターの検査結果で話ができることになり、病診連携の面からも大変有用であると思われる。