静岡県医師会報、平成5年3月1日発行
とびらのことば

国際社会に生きる

静岡県医師会理事 平良 章

 昨年暮れに私のオフィスの待合室に出しているある女性週刊誌の綴じ込みの特集で「愛華は地球になった」というのを読みました。12歳という若さで小脳出血のため急死した少女の描き遺した「地球の秘密」という地球環境の保護を訴えた漫画が反響を呼び、世界60ヶ国の言葉に翻訳され、「地球サミット」でも取り上げられたというものでした。生前、将来は医者になっていろいろな人の命を助けたいと言っていたという愛華ちゃんの残したメッセージに感激性の私はただ涙し、「私にまかせなさい。ちゃんとあとは受け継ぐから」と言いたいところでしたが一人でやれることには限度があります。可能な限り協力は惜しまないものの自分が中心になってやっていくのは今現在は私の場合は外国人労働者の医療の問題であります。これまでの私は開院○周年記念チャリティゴルフコンペという形で10年間、計400万円余を所属を経由して交通遺児育英資金を中心としてアクトして来ました。10年を一区切りとして今度は所属ライオンズクラブ内で病気遺児のためのウオークラリーキャンペーンを提唱しつつ、今年11回目になるは続けて別の生かし方を考えたいと思っています。

 さて、これもまた同じ女性週刊誌の日米環境セミナーで竹下首相が講演した原稿が皇太子妃となられる小和田雅子さんの書いたものであったという記事。「ハスの葉クイズ」といって池にハスの葉が浮いており、葉の面積が日毎に2倍になり、葉が池全体を覆ってしまうと池に生息している魚などの生物が窒息死してしまうとするとき、ハスの葉が30日目に池全体を覆ってしまうとすれば池の面積が半分覆われるのは何日目になるのでしょうかというものです。答えは29日目なのですが、問題は池の表面が半分覆われるのに29日もかかるため、残り半分が覆われるのはまだまだ先だと錯覚しがちですが、実は破局は翌日に迫っているというところにあります。現在の地球環境の破壊の状況はこのハスの葉に覆われつつある池の状況と似通ったものかもしれないというものです。さらに彼女は、国会の定数是正の問題に触れ、「人口だけでなく地域の特性とか面積も考慮に入れて、そこに棲むすべての生き物の生きる権利も森羅万象の中で意見を表明できる唯一の生物としての人間がそれを代表すべきで、それを含めて代表の数を決定すべきである」という意見を文献を引用して主張しています。こういう記事を 読みますと天皇制是非の論議は別としてこのような心やさしいプリンセスをいただいた私たち日本国民は幸せだなと思いました。ただ、愛華ちゃんとプリンセス雅子では年齢の違いもあり、同じ地球環境の保護を訴えても随分違います。

 私たちが現在取り組んでいる外国人労働者の医療の問題でもチャリティバザールへの参加を呼びかけた多くの奉仕団体で対応は様々でした。反対・慎重意見は4つに集約されました。第一に正規の手続きにのっとった外国人労働者はまじめに働き、医療費もちゃんと払っているはずで、結局は払えないのは不法労働者が主であるからこれは不法労働者を助ける運動ではないか、不法労働者は法治国家として取り締まるべきであるのでこれを助ける運動に手を貸す訳にはいかないというもの、第二に勝手に連れて来たやつがいて、勝手に出稼ぎに来たやつがいるという構図でこれは連れて来たやつが面倒を見るのが当然で我々は関係ないという論理。第三に外国人を日本の医療保険制度に組み込むと私たちが納めた高額の保険料で彼らの医療費を賄うことになり、保険料のさらなるアップにつながりはしないかという懸念。第四に大変残念な誤解ですがどこの業界でもある未払い、不払い、貸し倒れというものを医者だけが一般の人からバザーで回収しようとしているのはけしからんという意見でした。

 しかし、考えてみますと、来年成人式を迎える戦後の第二次ベビーブームのピークの人達が206万人、これに対し、今年1年間で日本国内で生まれた子供の数は121万人だそうです。ここ19年間、年々減っている出生率を見れば、現在一時的に不況の中にあっても将来の日本の産業界を支える労働力を考えれば、いくら合理化をしてもやはり外国人の輸入労働力に一部頼らざるを得ない状況は避けられない事実といっていいと思います。少し前までは外国人は珍しく、物珍しさ、こわいもの見たさのような感覚で遠まきに見ていたような気がします。しかし、今は気がつくとバスや電車の隣の席にいるのです。好むと好まざるにかかわらずもう彼らは立派に私たちの地域社会の一員となってしまいました。その外国人労働者たちが現在、医療保険制度の面では国民皆保険制度の傘の下になく大半が自費診療を余儀なくされているという事実をどう受け止めるかということになるでしょうか。私たちは幸い、国民皆保険制度によってすべての日本人が保険診療を受けることが出来るようになっていますが、もしこの制度が崩壊して医療費のすべてを現金で支払う自費診療になったら私たちはどうするでしょうか。お そらく少々の具合悪さでは医者へかからないでしょうし、治療を受けてもちょっと良くなればかかるのをやめてしまうのではないでしょうか。そうなると慢性病のコントロールは不可能となりますし、エイズ、結核はもとより、法定伝染病を含むあらゆる感染症の蔓延をもたらす可能性があります。すでに日本国内に居住する外国人の中にはそういう事例が見られつつあるのです。私たちは医療人としてこれは看過ごすことのできない問題だと考えました。

 昨年、私たちが静岡県医師会のアンケート調査の結果に基づいてまとめた9項目の要望事項があります。日本国内に居住するすべての人々に対し、国籍を問わず日本の医療制度を適用すべきである、それが外国人労働者のためだけでなく、私たちの地域社会の健康を守るためにも必要不可欠なことなのだということを国、県および市町村に対してご理解願う運動の一環として今回のチャリティバザールが位置付けられると思います。考えてみれば一つの地域のすべての奉仕団体、ライオンズクラブもロータリークラブもソロプチミストもJCも、そして医師会、歯科医師会、薬剤師会、福祉事業団、商工会議所、YWCA、外国人支援グループ、さらに複数の新聞社、テレビ、ラジオまでが後援団体に加わって、一つの目的に向かって一同に会しての共同歩調は医師会がジョイントの役割を果たしておそらく世界で初めて実現する画期的な奉仕活動となるものと思われます。すすめていく中でいろいろ苦しいこともありましたが、本当に多数の方々のご理解とご協力のおかげてなんとか成功裏に第一回のバザーを終えることが出来てたいへん感謝しております。ありがとうございました。今回のバザーの目標金 額が500万円、基金の創設は1000万円を目途としておりますので、次回は何か、チャリティコンサートでも考えなくてはなりません。その節はまたぜひよろしくご協力をたまわりますよう伏してお願い申し上げます


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