学校保健担当の平良でございます。
日本体育・学校健康センター静岡県支部の資料によりますと、学校管理下の突然死を給付の対象としました昭和53年以降平成5年までの16年間に静岡県下で112例の死亡例があり、そのうち心臓に原因があるとされた症例は61例、54.5%であります。全国では、昭和62年から平成3年までの5年間で見ますと、突然死567例で心臓性突然死は441例、77.7%でありまして、同じ5年間の静岡県下の突然死は35例、内心臓性突然死は19例で54.3%です。他県との比較は児童・生徒10万人に対する発生率が尺度になるかと思いますが、単年度で申しますと、先ほど阿部先生がおっしゃったように非常にばらつきがございます。
それで昭和54年〜平成元年のデータで全国と静岡県を比べてみますと、全国平均0.40であるのに対し、静岡県では0.46〜0.50、心臓系突然死に限ると全国0.30、静岡県0.25〜0.27と最近は必ずしも本県が他県に比して多いとはいえないようです。しかし、昭和54年〜58年でワースト10の10位タイとなったこともあり、私が日本体育・学校健康センター静岡県支部の運営・審査に携わるようになった昨年4月でも確かに静岡県は心臓系突然死が多いという説明を受けておりました。ちなみに、昭和54年〜平成元年までの突然死の少ない県は沖縄0.13、秋田0.15、徳島0.16などであり、逆に多いのは福島0.54、山梨、兵庫0.53、高知、熊本0.52などとなっています。
対策を考える上で上記突然死567例を分析したデータを見ますと、体育活動中の突然死302例中小学校約20%、中学校約30%、高等学校約50%と学年が上がるにつれて増加の傾向ですが、体育活動外の265例では小学校28%、中学校32%、高等学校40%と差は少なくなっています。成長との関係をみますと身長、体重の増加が標準以上に著しい子に多いようです。運動種目別では陸上運動52%、球技24%、水泳10%となっており、陸上運動と球技では小、中、高の順に多くなり、逆に水泳では小、中、高の順に少なくなっております。また、小学校では教科体育中の突然死が最も多く59%、中学校では教科体育中は40%で課外指導特に部活動中の突然死が53%と多く、種目としてはサッカー、野球、バスケットボールが主なものです。高等学校では教科体育中は46%、課外活動中36%であり、サッカー、バスケットボール、ラグビーが比較的多くなっています。教科体育中では走っている時、特にゴール前の全力疾走の時およびその直後が最も多くなっています。やはりウォーミングアップの大切さと、ゴール直後に立ち止まらないこと、マラソンのある女子選手のように
いかにも全力を出し切ったことをアピールするかのようにゴールインしてバタッと倒れる、そういうことが危険なのでありまして、ゴールインしてトラックをゆっくり一周するのが徐々に興奮状態をさまし、自律神経系のバランスを保つのに大変重要であると説明しております。
また、持久走のゴール前での事故は頑張り屋さんに多く、体調が悪くても無理して全力疾走をしてしまうことが多いようですので、持久走前の健康診断のみならず、そうした性格分析と、ゴール前50m、100mの教職員の配置も必要となろうかと思います。
こうした突然死症例の基礎疾患の有無を調べてみますと、心臓管理下にあった症例37%、基礎疾患のない症例が実に61%もあります。そういったところが、心臓検診がどれだけ役に立っているかといったようなご指摘にもなろうかと思います。
心臓管理下にあった症例27例を分析してみますと、不整脈10例(QT延長症候群5例、心房粗動2例外)、手術後症例9例(VSD4例、ファロー2例外)、心筋疾患6例(特発性心筋症2例外)、弁膜疾患2例となっていますが、不整脈例では水泳中の突然死が多く、手術後症例では中長距離走と球技、心筋疾患例では短距離とサッカーなどのダッシュする種目に死亡が多いのが特徴的であります。これら症例で管理・指導区分を見てみますとD11例、E12例で記載のない症例もあり、またEの10例中運動部活動が「可」8例、2例は記載なしとなっています。こうした例で指導区分に適した運動が実施されていたか検討する必要があります。水泳中の突然死では心臓管理下の26例中7例が水泳で死亡しており、7例中6例が不整脈であります。
また不整脈症例10例中6例が水泳中の死亡となっており、不整脈に関しては特に水泳は要注意のようです。運動量からすれば特に管理区分を越えるとは思えませんので、従来から言われている循環器に対する自律神経系の関与が重要かと思われます。すなわち 息こらえによる副交感神経の刺激(バルサルバ効果)、 顔面の冷感受容体への刺激、 水圧による圧受容体への刺激などが複雑に影響を及ぼしているものと思われます。潜水による徐脈化は水温が下がるほど著明となることがわかっており、文部省の水泳指導の手引きによりますとプールの適温は24〜27℃、最低22℃以上、気温差5℃となっておりますので、これは厳重に守っていただきたいと思います。
以上述べましたことの外に対策として大切なことは、当然のことながら
心臓管理下の児童・生徒に対しては管理・指導区分を守ること。記入漏れに十分注意すること。保護者は主治医からの管理・指導区分を必ず学校へ伝えること。
学校における救急体制を確立し、教職員のみならず児童・生徒へも救急蘇生法を習得させること。
3E可と禁については陸上運動と水泳とは別に考えたい。
年間の身長・体重特に体重の増加が全国平均を上回る生徒に事故が多いということが指摘されておりますので、こういったことも気をつけなければいけないと思います。
また、肥満児が持久走に参加する場合は、オーバーペースにならないよう指導する。
潜在性の心筋炎に注意し、持久走大会の実施をインフルエンザの時期から外すよう申し入れ、風邪気味の子の参加は慎重にすること。
心疾患児及び級友に対して健康教育を実施したい。心疾患児は卑屈になることなく生きる勇気を持ち、級友は他人の痛み、苦しみが理解できるやさしい、思いやりのある子供になって欲しい。そして、担任、体育教師、養護教諭のバックアップが必要なことはいうまでもありません。
お答えになりましたかどうか甚だ心配でございますが、私が現在考えておりますことをまとめて述べさせていただきました。今後ともよろしくご指導の程をお願い申し上げます。
平成7年3月25日 学校保健担当理事 平良 章