中日新聞連載企画(保険医協会西部支部委託)4月12日火曜日掲載

診察室から

 インターネットで先生のところのホームページを見て、ちょっとご相談申し上げたい事がありましてというメールや電話が最近多くなりました。その中の一つ、90歳の痴呆症(認知症)の男性。ケアハウスで一人暮らしをしています。介護度は1ですが、実際の家事はとても無理で、毎日ヘルパーさんが朝夕入ってお世話をしています。東京で住む長男が隔週末に来浜して面倒を見ていますが、どんどん痴呆が進んで一人暮らしが不可能になったらどうしようという不安が募っています。来年4月改定の介護保険制度は予防給付という新しい試みを打ち出していますが、残念ながら痴呆はその対象外です。廃用症候群といって使わないことによって、どんどん衰えていく片麻痺の手足や健側などパワーリハを駆使して鍛え、介護度が上がるのを予防しようという考え方です。しかし使わないと衰えていくのは肉体だけではありません。頭だって使わないと衰えていくのは同じです。障害の無い若い人だって頭を使わなければ発達しないだけでなく衰えていく。ましてや早期の痴呆患者は残存能力をしっかり引き出し、全体的な脳の活性化を図ることによって痴呆の進行を遅らせ、急激な介護度の上昇に歯止めをかける必要があるのです。

この方も一人暮らしですからヘルパーさんとの会話だけではあまりにも会話が少ない。一方通行のテレビ中心で、しかも水戸黄門などのように途中居眠りしていてもハッピーエンドの結末がわかって安心して見ていられる番組ばかりでは脳の機能は衰えるばかり。意外性のある言葉のキャッチボールが必要なのです。話しかけられてそれをよく聞き、理解し、返事を考え、言葉にして返すということを繰り返し繰り返し行うことが脳の活性化を促します。脳梗塞や脳出血で脳のかなりの部分がダメージを受けても、残存した健常部分を引き出し、そこが衰えないようしっかり使うプログラムが脳の廃用症候群の進行を防止します。手足のように見えないからこそ大事にしたい脳の残存能力、痴呆は処置なしと決めつけないで下さい!診察室からの叫びです。

(11字×80行=44字×20行としました)

浜松市・平良内科・平良 章
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