浜松市医師会ウイークリー

診療報酬来年3月改定に関する最新情報と解説

浜松市医師会理事 平良 章

 来年3月に改定、4月実施される社会保険診療報酬に関する論議がいよいよ大詰めを迎えようとしています。今回の改定にとどまらず、厚生省の考えがどのあたりにあるかを探りながら最新の情報を交えて解説を試みたいと思います。

 最もショッキングだったのは11月14日の日医の坪井副会長と糸氏常任理事の発言でした。そろって多剤投与規制で処方料大幅アップをと主張しました。具体的には現在の10剤規制を5剤にして、それと引き換えに処方料(処方箋料ではない)を4〜5倍に引き上げるというものです。現実に医療機関の重要な経営原資の一部となっている薬価差益がメーカー戦略によって今後もさらに縮小の一途をたどる現状を認識し、医師・医療機関自らが改めて薬剤の使用を見直し、総医療費に占める薬剤費が7兆円とすればそれを例えば5兆円に減らせばそれを技術料として医療機関の側に回せるのだという論理です。内科系では大変でしょうが内科系が取り組まなければ薬剤費はそうは減らない、会員の猛反発を恐れてか手挙げ方式にという発言もあったようですがそれではそんなに処方料は上げられないでしょう。薬を使えば使うほど収益の上がった時代は遠く去り、薬に対する一般の知識も深まるとともに薬害の論議もやかましく、「必要最小限の薬を良く説明して処方する」という時代になったということでしょうか。いずれにしてもそういう思い切った発想の転換を図らなければならない時期に来たことは確か なようです。

 1)マルメの問題 日医は包括化、定額制に対しては医業経営管理費用などを含めてマルメを有利に導くことができれば良いとしてマルメで対応する部分が増えることにむしろ積極的です。もちろん末端会員としてはなってしまったものはいかに有利に活用して行くかを考えていきましょう。しかし、マルメの行き着く先はその患者の診療の全てを一人分、一月分いくらとしてマルメてしまう「登録医制度」であろうことを決して忘れてはならないと思います。

 2)特定療養費制度 前回の改定で導入されたこの制度は、とりあえず特定機能病院で紹介状なしの患者さんに初診料の一部を自費で徴収するという一見診療所とは無縁のような形で巧妙に始まりましたが、実は大変なものでした。これからは給食の一部負担を始めとしてビタミン剤、消炎鎮痛剤、パップ剤から漢方薬までの保険給付はずしの方法としてこの言葉が都合良く使われるでしょう。外交問題の絡む漢方薬は今回も結局見送りとなると思われますがビタミン剤、パップ剤は今回あるいは10月の再度の改定ではずされるかもしれません。漢方主体の治療をなさっているお医者さんは今から対策を立てる必要がありそうです。給食費もベースになる部分のみという形で一部負担になる可能性は高く、民間保険が導入されるかもしれません。

 3)かかりつけ医と在宅医療 マルメの拡大と同様、点数表にかかりつけ医という文字が出てくるかどうかに私は最も注目しています。寝たきり老人総合診療料のようなマルメの形で、手挙げ方式でという日医執行部の発言もありましたが、おそらく今回は出ず次の改定になるのではないかと予想しています。かかりつけ医機能は本来初診料、再診料、診療情報提供料、各種指導料・管理料のアップという形で評価されるべきはずのものですから、日医執行部の最近の説明の真偽が明らかになるでしょう。また、かかりつけ医というものは患者さんの側に選択権がある外来診療が主体だと思うのですが、何故か在宅医療がかかりつけ医機能の評価の対象とされているようで往診料を中心に在宅医療関連の点数はかなり上がりそうです。ただし訪問看護ステーションの点数は据え置きになると思われます。

 4)医薬分業の推進 処方料を上げて処方箋料を上げなければ医薬分業は消滅します。もし処方料が4〜5倍ということなら現在24点ですから100点位、その場合処方箋料は200点位にしなければ医薬分業の推進は出来ないでしょう。そうなると医療費の再配分という角度から見れば現在高過ぎるとの批判のある調剤薬局の調剤点数をある程度削ったり、包括化や逓減制をとることが予想されます。

 5)保険医の定員制と定年制 昭和62年厚生省内に設置された国民医療総合対策本部が示した厚生省の基本方針の中で、『老人の社会的入院をなくすために老人保健施設、中間施設を作ること、在宅医療や訪問看護の推進、基準看護や付添看護の在り方の見直し、特定機能病院構想を含む医療機関の機能・役割分担、特定療養費制度の導入、そして家庭医機能を担う開業医を支援していくためのモデル事業(村瀬会長が言い出したはずのかかりつけ医推進モデル事業)』などどんどん実行に移されており、さらに現在進行中の『給食への自己負担導入、医師の生涯教育への介入』があり、まだ手をつけてないのは『保険医の更新制』の問題だけです。ドイツでは保険医が多い地域は保険医数を凍結し引退がない限り新しく契約しないこととし、保険医に68歳の定年制を設け99年から実施するということですが、なんと驚くことに日本の厚生省は『保険医登録の更新制と医師の生涯教育システムとを連動させる』と明言しています。これには長い歴史と深い裏があり、医療費を抑制するには医師数を制限しなければ実効がないとの観点から医師免許の更新制・定年制を考えて来たようですが医師会の激しい抵抗に 遭うのは目に見えているので自分たちの握っている保険医の登録を利用しようとの戦術に切り替えたということです。日医執行部は絶対に負けて欲しくありません。

 6)その他 甲乙2表は一本化しますが次の医療機関機能別3表への布石です。これと3基準といわれる基準看護、基準給食、基準寝具の見直し、許認可事項の見直しと合わせ3大改革と称せられているようです。薬価については薬価調査をもとに実勢価格に近づける方式は変わらず、先に私が主張したような原価を考慮に入れた方式は採用されませんからこの点では建値制でメーカーに吸い上げられた薬価差益を取り戻すことはできません。そこに始めに述べた5剤規制で薬剤の総使用量を減らして原資を生むという発想が生まれたのではないかと推察しています。ただし、発売後爆発的に売れて総医療費を押し上げたと批判されたメバロチン、インターフェロンなどは大幅に下がることになりそうです。薬価の改定幅は13%とも18%とも噂されましたがその辺の数字は不明です。以外とそう大きくないかも知れません。

 現在までに私が得た情報を基に大胆な予測を試みました。状況は刻一刻と変化しており今日の予想は来年3月までに何度か修正する局面が出てくると思います。にもかかわらず敢えて現時点で原稿を書いたのは「10剤規制でも多少の混乱があったのに5剤規制となると内科系ではパニックになるかも知れない、しかし例え政治決着で5剤が6剤、7剤になっても、あるいは次の改定まで見送られたとしても、もし時代がそういう方向であるとすればもう今から頭を切り替えて対処しないと今まで10剤出していたものを法律が変わりましたから今日からは5剤しか出せませんとは患者さんに言いにくい訳ですから、日々患者さんに接する立場として今からある程度の心の準備が必要なのではないか」と感じたからです。ご参考になれば幸いです。


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