医療は自由主義社会・資本主義社会日本にあってコメ、タバコとともに事実上の統制経済下におかれております。そして社会保険診療報酬の枠の中で事細かくその単価が定められ、しかも政府・厚生省の場当たり的改定のやり方で内科再診に初回加算がついたかと思うと翌年にはなくなったり、今度は内科再診がなくなって外来管理加算がついたりしますし、血糖がグルコースになったりと実に猫の目のように目まぐるしく変わります。さらに慢性疾患が特定疾患に名称が変わって文部省の難治疾患研究事業と紛らわしくなったりもします。そしてこれは作為的なものかもしれませんが長期投与が認められて普及してくると次には月1回の算定が月2回になって慌てて長期投与を減らしたりと対応に苦慮することもしばしばです。
しかし、厚生省の方針は大きなところでは数年単位で決定されているようです。往診や時間外診療は医療費削減のためでしょうか、あまりやってはいけないと言っていたのですが、今度からは同じく医療費削減のためと思われますが入院を減らして在宅医療を推進するように誘導する方針に転換したようで患者さんから「かかりつけ医」に選ばれるよう、どんどんやれと言われるようになりました。そうした方針変更の度に良心的医療と医業経営とのはざまで末端の医師会員が苦悩しているというのが実態であります。そして同じ統制経済でもコメ、農家に対するような手厚い保護はないのです。厚生省の社会保険診療報酬改定のやり方は常にその目指すところへ誘導するためのものであり、かつては人工透析、現在では医薬分業がその最たるものでありましょう。
かといってそういう制約から逃れて自由診療にすることは容易なことではありません。もちろん大東亜戦争以前は完全な自由診療でありましたし、終戦後も昭和32年4月から昭和36年4月にかけて国民皆保険が徐々に推進され、完了するまでは自由診療が主体でありました。現在でも自由診療を選択することは法的には可能でありますが、現実には広く全国民の間に国民皆保険の考えが浸透した現在、保険診療抜きでは医業経営は考えられないものとなっております。したがって社会保険診療報酬の度重なる改定と保険審査や監査、保険医指導、さらに医業税制の変遷が医業経営にもたらす影響は計り知れないものがあります。社会保険診療報酬の改定についてはその動向を早めに探り、反対すべきものは速やかにその意思表示をし、決定されたものについては医業経営上有利となる方向で活用を図る道を探るしかないと思われます。
前段の社会保険診療報酬改定と保険審査・監査、保険医指導については社会保険の項目で取り上げられますので、ここでは「医業税制の変遷」について述べたいと思います。
ちなみに浜松市医師会における一人医師医療法人の設立件数は平成6年6月9日現在でA会員
351名中67件であり、このうち静岡県一人医師医療法人会に加入している法人は50件であります。