第16回合同医局新年懇親会の開催にあたって
<抜粋>

浜松市医師会副会長・県西部浜松医療センター副院長(非常勤)  平良 章

 医療保険改革の論議が、岡光前厚生事務次官の不祥事に多少の影響を受けながらも、しかし一方ではこれをものともせず、いよいよ大詰めの議論となって来ました。昨年7月の38項目を全部実施すると医療費は現在の約27兆円から、一気に10兆円位になってしまうのではないかとびっくりしましたが、保険医の定年制や保険者が医療機関を選んで契約するなどの中・長期的検討課題は別として、さしあたっての厚生省の目論みは3点に絞られました。

 第一は老人の1割定率自己負担、第二に社会保険本人の2割自己負担、第三が薬剤を別建てとして3−5割自己負担とするものです。どれも大変な問題ですが、第一の老人の1割定率自己負担が最大の争点となりそうです。坪井日本医師会会長は私見とことわりながら、定額を死守するという大命題で2000円の定額でどうかと妥協点を考えているようです。これに対して、自民党のこの方面のまとめ役である丹羽代議士は定率にこだわる立場から、5%の定率でどうかと落としどころを探っているようです。5%なら金額にすれば大体現在の1020円(4.7%に相当)と大差ありませんから、診療所の外来ではそう負担増にはなりませんが、病院の外来は頭を切り替えなくてはいけないでしょう。これまで定額に甘えてつい余分な検査やくすりがなかったか大いに反省と点検が求められるところです。コスト意識を喚起するということですが、当の老人の患者さんにとっては、受診抑制という形で表されることになります。また、マルメの点数となっている老人外来総合診療料は月1回の受診で算定できるようにしないと窓口で余分に貰ったり返したり、トラブルの源になりそうです。厚生省は受診回 数の減少も含めて1割自己負担で2,600億円の財政効果と試算しています。

 第二の社会保険本人の2割自己負担。試算では3,600億円の効果。健康保険法の本則には健保加入者本人の自己負担割合は2割と明記されており、84年の健康保険法改正時点で暫定的に1割と決めた措置が現在も続いていることから、これに対する抵抗は現実的にはなかなかむつかしいものがあります。しかし、将来的に3割で統一ということも検討されており、注意が必要です。 第三の薬剤費の3−5割別建て自己負担。財政効果はすべての薬剤の自己負担を3割とすると8,600億円。今、厚生省が最も参考にしているフランスでは薬剤を4グループに分け、10割給付、65%給付、35%給付、給付せずとしていますが、そうしたことは真似せずに一律に3−5割負担という案が出てくるのは許せない気持ちです。その上、ビタミン剤やパップ剤など一般医薬品(OTC)としても売られているものは薬価基準から削除することが検討されています。シメチジンなど他剤との相互作用に気をつけなければいけないものもOTCとして売られることになりそうですが、私は患者さんの健康を守るには、ニコレット方式で、一般医薬品もすべて処方箋で保険給付率を0割として、医師の管理下に おいた方が良いと主張しています。そして、薬剤に関して最も大切なことは薬価決定過程の透明化によるリーズナブルな薬価決定であると思います。特に輸入医薬品や治療材料の輸入コストを無視した価格こそ医療費の無駄遣いの一番手として、真っ先に問題にされるべきではないでしょうか。また、私が3年前にウイークリーや医療センター医局会、診療協議会等で述べた薬剤の5剤規制もいよいよ現実のものになろうとしています。しかも今度は、6剤目からは患者の自己負担となる可能性が高まっています。インフォームドコンセントがいよいよ重要になります。さらに、3−5割の定率負担に替わる代替案として、1薬剤について15円程度の定額負担を導入することも検討されています。

 保険医の定年制については、歯科で年金を差し上げる形で始まるようですから、いつまでも避けて通れない問題のようですが、医療費削減にはあまり効果的な方法とは思えません。なぜなら、高齢医師の診療報酬請求の平均点は決してそう高くはないからです。もし、新聞の議論に出てくるように、本音を隠して高齢による判断力の低下などを問題にするなら、運転免許と国会議員の定年制を3点セットで議論して欲しいと提案します。そもそも、暦の年齢と肉体的および精神的年齢とは必ずしも一致せず、個人差の大きいことは国会議員の先生方が最も主張したい点のはずです。

 岡光事件を見ても、日本のこれまで最も不幸なことは執行機関であるべき行政がほぼすべての立法を担って来たことではないでしょうか。日本医師会は今後、シンクタンクを作っていろいろ政策立案していくとのことですから、なにとぞ法律案の作成まで行い、今回の署名簿の衆参両議長への提出の紹介議員として大勢の代議士の先生方の協力を得たように政治力を強化して、国民医療を守る立場ですべての医療関係職種を結集して発言する、行動する砦となって欲しいと期待しています。
 さて、厚生省は病院と診療所の機能分担の推進ということで、最終的には病院は入院医療に専念し、外来廃止(専門外来と紹介外来のみ)という方向性を示しています。総合病院という呼称を廃止し、開放型病室を持つ地域医療支援病院を作って行くというのもそうした方向性に沿っています。聖隷浜松病院が手を挙げる準備を進めていますが、私たちの県西部浜松医療センターはすでにすべての要件を満たしています。というよりもどちらかというと、これからの医療の方向性を県西部浜松医療センターの方式に求めたという方が正しいのかも知れません。


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