『今こそ福祉給食から教育給食へ』

浜松市医師会理事 平良 章

 本日は、話題提供ということで10分間、前座を努めさせていただきますのでよろしくお願い致します。タイトルを「今こそ福祉給食から教育給食へ」としましたが、「福祉給食という言葉はあったかな」と柳本先生に言われて「そういえばそうだな」と思いました。給食がスタートするころの状況が、お弁当をもって来れない子がいたりで福祉的な意味をもっていたということ、しかし、それがある程度達成されるとともに、今度は、体位向上という大命題に変わったということですが、そのころまでのことについては、私は本で見るだけで実感としてはよく知らない世代の人間です。しかし、それもまた今の子供達を見れば一目瞭然であるように十分達成されたと言って良いようです。

 そしてそのためか文部省は数年前から今度は“給食は生きた教育なんだ”ということを盛んに言い出した。しかし、その裏で「コストを切り下げろ」ということもうるさく言って来ているらしいのですが、それは結果的にはおそらく相反することであるので、そこからさまざまな問題が派生して、現場の先生方の努力とは裏腹に文部省のお題目とはいささか違って来ているのではないかと危惧している次 第です。数字での評価は、教育面では殆ど現れませんので、コストがどれだけ低く抑えられたかという方が数字としては目につく訳で、その為に給食センター方式がいいとか、共同購入にして自校調理方式にすべきだとか、また、給食職員の人員削減・パート化の問題、作業の効率化、腰痛などの労働災害の点から見たプラスチック容器、その数と形と重さ、先割れスプーン、紙パック牛乳へとすすんできて、文部省の言う「給食は生きた教育なんだ」というのは掛け声だけになってしまっているような気がします。

 私たちは、これを掛け声だけでなく、『6歳から15歳までの味覚、嗜好、食習慣の完成する大事な時期にしっかりした“栄養教育”と、さらにそれにマナーを含めた“食教育”を行う場にしたい』と考えて行動を開始した次第です。ただ、この問題の一番の難しさは、私たちが医師会で並行して取り組んでいる外国人の医療の問題もそうなんですが、すでにそこへ向けてさまざまな思惑が介入し、政治、思想の問題と絡んで来ていることにあります。

 私は、この問題に関心をもって以来、給食と名の付く本を片っ端から買い集めましたが、大半は政治思想絡み、一部文部省サイドの公的刊行物、私 がなるほどと共感して読めたのは数冊に過ぎませんでした。そこで、政治思想絡みのものはそれに流されないように注意深く、また、文部省ものはお題目だけはとても立派なのでこれは十分に参考にして私の考えをまとめてみました。そこで気がついたのは、やはり学校医の大部分が男性であって、栄養学というか食教育というものが苦手ということでしょうか、学校医の側からの刊行物や、表立った提言は見当たりませんでした。やはり学校医にとって給食の問題は煩わしい、関心の薄い分野かも知れません。しかし、私たちはあえてそこへ踏み込んで、私たち自身の栄養学、食教育に関する不勉強への反省も含めて取り組み、なんとか今の子供たちに正しい食の知識を身につけてもらえるようにしたい。そして、保護者の皆さんにも一緒に勉強して欲しいと思います。

 担任の先生方も教師として育つ段階での大学の教育学部でそういうことをちっとも習っていないのにも拘わらず、先生になったらいきなりそういうことを教えなさいと言われても自分自身がよく知らない訳で、やむなく“なにしろ専門の栄養士が献立を考え、プロの調理師が作る”のだから「とにかく残さず食べれば良いんだ」と学童、生徒に 押し付けるお仕着せの教育にならざるをえないでしょうし、給食自体が煩わしい雑務になってしまうのは当然の事だろうと思われます。

 これではいつまでたっても給食は食教育にはなり得ないし、根本から考え直す必要があるのではないでしょうか。したがって私たちのこの運動における最終目標として今考えていることは、まず第一に、すでに現場にいる先生方に対して食教育のための卒後教育の場を作ってもらいたい。第二に、大学の教員養成課程に食教育の講座を作ってもらいたい。第三に、学校を中心とした地域社会において保護者、学校医も一体となっての食教育の講習、研修の場を作ってもらいたい、ということを文部省に対して要求し、またお願いをしてまいりたいと考えております。

 そして、最終的にはこどもたちをみんながそれぞれの立場で責任をもって十分な、かつ正しい食教育ができるようにもって行ければ、目標達成といって良いと思います。そうした目標に沿ってお配りしたようなアンケート調査を実施したいと現在、計画を立てております。まだ案の段階でありますのでお目をおとうしいただいて、ご意見をお聞かせいただければ幸いです。

 私の原案をもとに内山先生、高林先生はじ め教育委員会の先生方のご意見を入れてで修正してありますが、ここ4、5日の準備の中で学校医対象の物も欲しいなとも思いました。スケジュールとしては来月17日の浜松市学校保健会の理事会でご承認をいただいた後、浜松市内の大規模、中規模、小規模の小、中学校、計6校で全児童、生徒とその保護者、担任の先生方の総計7000余名を対象として実施する計画です。対象となる各学校の学校医の先生方には決まり次第お願いに上がりたいと思いますので、お知恵をお貸しいただきたい、またご協力をよろしくお願い申し上げます。

 時間の都合でアンケートの細かい内容にはふれませんが、決して給食の問題点の全てを網羅している訳ではありませんで、何人かの方からご指摘のありましたようなこと、例えば、今やっている給食にどんな意味があるのか、福祉的な意味での給食の必要性がまだあるのか、給食を存続すべきかどうかというような議論や、歯医者さんや大脳生理学者を交えての“噛むことの重要性”、あるいは、異物混入を防ぐための対策、食器のことなど山積するさまざまな問題を思い切って割愛させていただき、今回の目的にむけて、焦点をうんとしぼってみました。

 こうした観点 から本日の特別講演を浜松市教育委員会指導課の給食担当の指導主事であります高林直子先生にお願いできたことは大変幸運でした。私たちの知らない学校給食の現場の状況を教えていただく絶好の機会だと思います。よろしくご拝聴くださいますようお願い申し上げ、前座の責とさせていただきます。ありがとうございました。

平成4年11月25日(水):浜松市医師会学校医研修会


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