浜松市医師会理事 平良 章
3日前に浜松市医師会の学校医研修会でこの問題を取り上げ、前半にわたしが話題提供として本日と同じタイトルで「今こそ福祉給食から教育給食へ」と題して話させていただき、後半に特別講演として浜松市教育委員会指導課の給食担当の指導主事であります高林直子先生に、「浜松市における学校給食について」というタイトルでお話しをいただきました。したがって、浜松の先生方にとってはダブる面が多々あるかと思いますがご了承願いたいと思います。
高林先生には、浜松市の給食がすべて自校方式であり、作る側と食べる側が身近で、衛生管理もしっかりしていること、給食が一食211円と安いこと、その秘密は基幹物資と一般物資と2とうりあって、そのうち基幹物資には国の補助があるためであること。栄養士の代表で作る物資調達委員会で材料を選定し、献立作成委員会で標準の献立を作り、それに各学校で誕生日給食とか、仲良し給食、親子給食、寿給食、がまん給食、バイキング給食、予約給食などいろいろな工夫をしていることなどが紹介されました。そして、給食をとうして感謝の心を育てること、食べるということの楽しさを阻害しないよう、“心の触れ合う
好ましい学校給食”をめざして頑張っている様子がよくわかりました。この話を参考にしてこれからのこの運動のまとめに生かして行きたいと思いました。
私が、浜松市医師会で話して、同じことを県医師会学校医総会へもってきた理由は後で述べますが、浜松で今日お配りしましたようなアンケート調査を計画しておりまして、ただこれはまだ案の段階でございます。すでに、何カ所か手直し事項もございます。スケジュールとしては来月17日の浜松市学校保健会の理事会でご承認をいただいた後、浜松市内の大規模、中規模、小規模の小、中学校、計6校で全児童、生徒とその保護者、担任の先生方を対象として実施する計画です。すでにどことどこの学校でということも内々に相談しておりまして小学生約2000名、中学生約1700名、保護者約3300名、担任の先生100余名、総計7000名以上の比較的大掛かりな計画ですすめております。
さて、今日のタイトルを「今こそ福祉給食から教育給食へ」としましたが、「福祉給食という言葉はあったかな」と柳本先生に言われて「そういえばそうだな」と思いました。給食がスタートする頃の状況が、戦前のことだそうですが、お弁当をもって
来れない子がいたりで福祉的な意味をもっていたということでそういう言葉の使われ方をしているようです。しかし、それがある程度達成されるにともない、今度は、体位向上という大命題に変わったということですが、そのころまでのことについては、私は本で見るだけで実感としてはよく知らない世代の人間です。しかし、それもまた今の子供たちを見れば一目瞭然であるように十分達成されたと言って良いようです。そしてそのためか、文部省は数年前から今度は“給食は生きた教育なんだ”ということを盛んに言い出した。しかし、その裏で「コストを切り下げろ」ということもうるさく言って来ているらしいのですが、それは結果的にはおそらく相反することであるので、そこからさまざまな問題が派生して、現場の先生方の努力とは裏腹に文部省のお題目とはいささか違って来ているのではないかと危惧している次第です。
数字での評価は、教育面では殆ど現れませんので、コストがどれだけ低く抑えられたかという方が数字としては目につく訳で、その為に給食センター方式がいいとか、共同購入にして自校調理方式にすべきだとか、また、給食職員の人員削減・パート化の問題、給食職員の作業の
効率化、腰痛などの労働災害の点から見たプラスチック容器、その数と形と重さ、先割れスプーン、紙パック牛乳へとすすんできて、文部省の言う「給食は生きた教育なんだ」というのは掛け声だけになってしまっているような気がします。私たちは、これを掛け声だけでなく、『6歳から15歳までの味覚、嗜好、食習慣の完成する大事な時期にしっかりした栄養教育と、さらにそれにマナーを含めた“食教育”、この言葉を使って行きたいと思いますが、この食教育を行う場にしたい』と考えて行動を開始した次第です。
ただ、この問題の一番の難しさは、私たちが医師会で並行して取り組んでいる外国人の医療の問題もそうなんですが、すでにそこへ向けてさまざまな思惑が介入し、政治、思想の問題と絡んで来ていることにあります。私は、この問題に関心をもって以来、給食と名の付く本を片っ端から買い集めましたが、大半は政治思想絡み、一部文部省サイドの公的刊行物、私がなるほどと共感して読めたのは数冊に過ぎませんでした。
こういったものを参考にして私の考えをまとめたのですが、そこで気がついたのは、やはり学校医の大部分が男性であって、栄養学というか食教育というものが苦手
ということでしょうか、学校医の側からの刊行物や、表立った提言は見当たらないということでした。やはり学校医にとって給食の問題は煩わしい、関心の薄い分野かも知れません。しかし、私たちはあえてそこへ踏み込んで、私たち自身の栄養学、食教育に関する不勉強への反省も含めて取り組み、なんとか今の子供たちに正しい食の知識を身につけてもらえるようにしたい。そして、保護者の皆さんにも一緒に勉強して欲しいと思います。
担任の先生方も国語や英語とかの教師として育つ段階での大学の教育学部でそういうことをちっとも習っていないのにも拘わらず、先生になったらいきなりそういうことを教えなさいと言われても自分自身がよく知らない訳で、やむなく“なにしろ専門の栄養士が献立を考え、プロの調理師が作る”のだから「とにかく残さず食べれば良いんだ」と学童、生徒に押し付けるお仕着せの教育にならざるをえないでしょうし、給食自体が煩わしい雑務になってしまうのは当然の事だろうと思われます。
これではいつまでたっても給食は食教育にはなり得ないし、根本から考え直す必要があるのではないでしょうか。そうしたことを改善したいという目標に沿って今日お配りした
ようなアンケート調査を実施したいと考えた訳です。お目をおとうしいただいて、ご意見をお聞かせいただければ幸いです。始めにのべましたように、来月の浜松市学校保健会理事会で承認をいただいてからの実施の予定でございますが、“給食を正しい食教育の場として活用するためにはどうすればいいか”というのが大命題でございます。したがって、アンケートの内容につきましても、決して給食の問題点の全てを網羅している訳ではありませんで、何人かの方からご指摘のありましたようなこと、例えば、今やっている給食にどんな意味があるのか、福祉的な意味での給食の必要性がまだあるのか、給食を存続すべきかどうかというような議論や、バイキング給食、一部弁当持参の是非、ハンバーグ世代といわれる子供たちに対する調理方法の問題、歯医者さんや大脳生理学者を交えての“噛むことの重要性”、あるいは、異物混入を防ぐための対策、食器のこと、先割れスプーン、割り箸、食品添加物、合成洗剤など山積するさまざまな問題を思い切って割愛させていただき、今回の目的にむけて、焦点をうんとしぼってみました。
このアンケートの案は、私の原案を基に浜松市教育委員会の先生方のご
意見を入れて修正してあります。綴じ方が逆で3枚目になりましたが1a、児童、これは小学生です。1b、生徒、これは中学生です。それに保護者、担任の先生の4ページになっています。しかし、ここ4、5日の準備の中で学校医対象の物も欲しいなとも思いました。追加の案が出来ましたら追加したいと思います。
小学生では、小学校で習う漢字にフリガナをつけ、中学校で習う漢字は平仮名としました。中学生では、小学校で習う漢字はフリガナなし、中学校で習う漢字のみにフリガナをつけました。内容はほとんど同じですが10、11番の献立の項目が多少違っております。「給食はおいしいですか」に始まり、量、時間を尋ね、給食を残すかどうか、その理由、残す物は何が多いか、好きな物、嫌いな献立など一般的な事が大部分ですが、7番、8番そして13番あたりが目的に沿った核心の部分といえるでしょうか。栄養のバランスを考えられるようにしたい、給食の内容に対しても関心をもち、また、家庭でも話題にしてもらいたいという願いです。
2枚目、2、保護者に対する質問は最も興味のある項目が並んでいます。3日前の浜松での学校医研修会の懇親会で、大久保会長から「やっぱり家族構
成が分かった方がいいね」というご意見をいただき、一同「なるほどそうだ」と感心し、すぐにこの案の先頭に追加しました。まず、家族構成をたずねれば、結果も祖父母のいる家庭、核家族、父子家庭・母子家庭あるいは両親のいない家庭、それぞれに解析できるかもしれません。次にこの案の番号で1番、2番、浜松市では給食不要論はあまり出ていないと伺っていますが、なぜ必要かという答えは興味があります。次いで子供達の食べている給食に対する興味の程度を、3番、給食だよりや献立表を見ているかとか、8番、家庭で話題にしているかとか、4番、ここでは、夕食を作るのにその日の給食との栄養のバランスをと、“栄養”を書き加えていただきたいのですが、この項目は“我が家の夕食との栄養バランスの調整”、7番、ここには、その日の給食と夕食の献立がと、夕食の次に“の献立”を入れて下さい。そして、(3)として、“時々する”と追加して下さい。この項目が“献立の調整”すこしすすんで、6番、献立表の内容を別の日の我が家の食事の献立に拝借したり、参考にしているか、即ちそれだけ関心をもっていただいているかということ。ここにも、“(3)時々する”を入れて下さい
。そして9番、学校給食を試食したことがあるか、5番、学校給食の栄養のバランス、ひいてはふだんの家庭の食事に対して、栄養のバランスについて気にしているか、子供さんに教えているか、教えられるかということを10番、12番でたづねます。そして11番、「やっぱり勉強しなくっちゃ」ということになるでしょうか。この順番に並べ変えようと思います。13、14、15番は今後への参考です。現代の保護者の意識の傾向がつかめるのではと期待しています。
2枚目の3、担任の先生に対する質問も興味深い項目が並んでいます。1番、子供たちと一緒に食べていますか、おそらく当然“はい”なので、本当は教室のどこで、即ち子供たちと向かい合ってか、子供たちの中に入ってかとか細かく聞こうかとも思いますが設問を工夫しなくてはなりません。2番、食べるのが遅い子に対する指導の仕方は難しい問題です。その他が多くなるかもしれませんが私たちも知りたい所です。3番に対する先生方の解釈もいろいろでしょう。4番、5番、6番、7番、8番は核心の質問です。学校の先生方が教師となるために学んで来た範囲外のことではないかと思うのです。それで9番、10番は将来へ向けての展望です
。11番、12番、13番は現在それなりに努力していると思われる内容をおたづねしました。
このアンケート調査を実施するにあたって、私たちがこの運動における最終目標として今考えていることは、まず第一に、すでに現場にいる先生方に対して食教育のための卒後教育の場を作ってもらいたい。第二に、大学の教員養成課程に食教育の講座を作り、全ての教員免許取得の必須条件として“食教育”を履修し、教師として育つ段階からしっかりした基礎知識を身につけて来てもらいたい。第三に、学校を中心とした地域社会において保護者、学校医も一体となっての食教育の講習、研修の場を作ってもらいたい、ということを文部省に対して要求し、またお願いをしてまいりたいと考えております。
そして、最終的には子供たちをみんながそれぞれの立場で責任をもって十分な、かつ正しい食教育ができるようにもって行きたい。そのためには、やはりこの運動を静岡県を拠点に、日本全国に広げる必要があると思います。ぜひ静岡県医師会、静岡県学校保健会そしてまた各郡市医師会、学校保健会のお力をお借りして静岡県全体を見渡して東部、中部でも同じような試みがなされ、静岡県として取り組むべき方向
というものを模索し、さらに、かなうことならば来年静岡県医師会が当番で、静岡で開催される関東甲信越静学校医協議会で討議されるようにお願いしたい。もし時間的に可能なら、関東ブロックの他の各県へもアンケート調査をお願いできればと考えてのことであります。
したがって、わたしが先程述べた3つの目標は、アンケートの結果に基づき、またこれからの実行委員会の討議の中で、当然修正されて行くべき“たたき台”としてお考えいただけると幸いです。浜松市の分は、来年の1、2月頃アンケート調査を実施し、できれば3月中には集計をすませたい、4月には報告できるようにしたいと考えています。他の都県へはその結果をつけて同様のアンケート調査をお願いできるでしょうか、静岡県の中部、東部ではその中間でどういうスケジュールが考えられるでしょうか。ぜひ、ご協力をよろしくお願い申し上げ、わたしの発表とさせていただきます。ありがとうございました。