医者の髭剃り


 医者をやっているうちにいつのまにかついてしまった髭剃りの癖がある。それは朝の顔の髭剃りの順序のことであるが、いつ急患だといわれて中断してもおかしくないような順序で剃る癖である。私は左利きだが、髭剃りはどちらの手で持つかは決まっていない。しかし、まず左の頬を剃る。次に右の頬。そして左、右と鬢を剃り、下口唇の下をちょっと剃ってから顎へ移り、下から上へ向かって剃り上げ、最後に鼻の下を剃る。だからその時々でちょび髭になったり、上条恒彦やリンカーンになったりすることになる。こういう癖は、やはり何度か朝の髭剃りの途中で急患とか、入院中の患者さんの容態の急変でむさ苦しい格好で駆けつける羽目になって恥ずかしい思いをした経験を繰り返しているうちに自然に身についてしまったものである。


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